要旨

本稿は、先に提唱された「知性社会学」が、「古典社会学」およびSF作品『三体』に登場する「宇宙社会学」と、どのような学問的関係にあるかを論じるものである。この三つの社会学の位相関係を明確にするため、本稿では20世紀の物理学を根底から変えた二つの革命——相対性理論と量子力学——とのアナロジー（類推）を用いる。

まず、「一般相対性理論と特殊相対性理論」のアナロジーを通じて、知性社会学が、特定の条件下でのみ成立する他の二つの社会学を内包する、最も普遍的な一般理論であることを示す。次に、「量子力学と古典力学」のアナロジーを用いて、知性社会学が、他の社会学が扱うマクロな社会現象の根底にある、ミクロな基本法則を記述するものであることを明らかにする。

この二つのアナロジーを通じて、三つの社会学が矛盾なく階層構造を成していることを論証し、知性社会学が、人間および非人間の知性が織りなす社会のあらゆる現象を記述するための、最も基礎的な学問分野としての地位を確立することを目的とする。

1. 序論：科学革命のアナロジーの有効性

科学の歴史は、既存の理論が、より広範で根源的な新しい理論によってその地位を再定義される、という「科学革命」の歴史である。ニュートン力学が相対性理論と量子力学によって再解釈されたように、既存の社会学もまた、AGIや地球外知性という新しい現実を前に、その理論的射程を問い直される時期に来ている。

本稿では、我々が提唱する知性社会学、劉慈欣が描いた宇宙社会学、そして我々の知の基盤である古典社会学の三者が、どのような知的体系を構成するのかを、物理学の歴史的アナロジーを用いて明確にマッピングする。これにより、知性社会学の学問的独自性と、他の理論への敬意を両立させることを目指す。

2. 一般相対性理論と特殊相対性理論：適用範囲の一般化

2.1. 物理学における関係性

特殊相対性理論は、「重力がない」という特殊な条件下で成立する。一方、一般相対性理論は、重力を「時空の歪み」として組み込んだ、より一般的な理論である。一般相対性理論の数式から重力の影響をゼロにすると、それは特殊相対性理論に一致する。つまり、一般理論は特殊理論を、その特殊なケースとして内包する。

2.2. 三つの社会学への適用

この関係は、三つの社会学の適用範囲を見事に説明する。

• 一般知性社会学（我々の理論）: 最も普遍的な理論。その公理は、知性体の物理的形態（生物か、機械か）を問わない。これは、あらゆる時空の状況（重力の有無）を扱える一般相対性理論に相当する。

• 特殊知性社会学 その1：宇宙社会学 知性社会学の枠組みに、「主体は生物学的存在であり、物理的な生存と拡張を第一とする」という特殊条件を加えたものである。これは、無重力空間という特殊な状況を扱う特殊相対性理論のように、知性体の中から「生物」という特殊なケースを抜き出した理論である。

• 特殊知性社会学 その2：古典社会学 宇宙社会学の枠組みに、さらに「主体はホモ・サピエンスであり、舞台は惑星地球である」という、より厳しい特殊条件を加えたものである。これは、無数にありうる生物文明の中から、「人類」というただ一つの実例に焦点を絞った、究極の特殊ケースと言える。

このアナロジーによれば、知性社会学は、宇宙社会学と古典社会学を、それぞれ「生物学的」「人類的」という条件下における、重要かつ具体的な適用事例として、その理論体系の中に位置づけることができる。

3. 量子力学と古典力学：ミクロな原理とマクロな現象

3.1. 物理学における関係性

古典力学は、我々が日常で目にするマクロな物体の運動を記述する。一方、量子力学は、その物体の根源的な構成要素である素粒子の、ミクロな振る舞いを記述する。マクロな現象は、無数のミクロな量子的振る舞いが平均化され、統計的に安定した結果として「創発」する。量子力学は、古典力学が記述する世界の、より根源的な説明を与える。

3.2. 三つの社会学への適用

この関係は、三つの社会学が扱う現象の「階層性」を説明する。

• 量子社会力学としての、知性社会学: 我々の二つの公理（予測不可能性、選択肢空間の最大化）は、個々の知性体（主体）間の相互作用を支配する、最もミクロで根源的な「量子的ルール」である。個々のインタラクションは、このシンプルで、時に直感に反するルールに従う。

• 古典社会力学としての、宇宙社会学・古典社会学: 「国家」「市場」「文化」「黒暗森林状態」といった、社会学が分析してきたマクロな構造や状態は、無数の主体（量子）が、この根源的なルールに従って相互作用を繰り返した結果として「創発」した、マクロな現象である。個々の主体のミクロな選択が、統計的な平均化を経て、あたかもそれ自体が法則を持つかのような、安定した社会構造として観測される。

このアナロジーによれば、知性社会学は、他の二つの社会学が分析してきたマクロな社会構造が、「なぜ」「どのようにして」生まれるのかを、より根源的なミクロな原理から説明する役割を担うことになる。

4. 結論：三位一体の階層構造

物理学の二つのアナロジーは、三つの社会学が矛盾なく、美しい階層構造を形成していることを示している。

知性社会学 ⊃ 宇宙社会学 ⊃ 古典社会学 > (一般理論／ミクロな原理) ⊃ (生物の特殊理論／マクロな現象) ⊃ (人類という個別事例／創発した構造)

• 知性社会学: 最も抽象的で普遍的な 「第一原理」 を提供する。
• 宇宙社会学: その原理が 「生命」 という媒体を通して現れる際の、力強い法則を描き出す。
• 古典社会学: その法則が 「人類」 という、我々が知る唯一の知性において、いかに豊かで複雑な文化や制度を創り上げたかを、詳細に記録する。

したがって、知性社会学は、先行する二つの社会学の偉大な知見を否定するものではない。それは、それらの知見が、より広大で根源的な宇宙の法則の中で、どのような位置を占めるのかを愛情と敬意を持って示し、そして、これから我々が直面するであろう、人間以外の知性との未来を照らすための、新たな光を灯すものである。