KUUGA: 空我
KUUGAとは?

KUUGA: 宇宙規模の「知」を未来へ

KUUGAは、宇宙の果てまで届く時間と距離に耐える「知」を保存するためのプロトコルです。これは単なる論文保存システムではありません。人間と、そして未来に現れるであろうあらゆる知的生命体のため、真に普遍的な価値を持つ知識を時空を超えて永続させることを目指しています。

誕生の物語:アカデミアからの旅立ち

KUUGAの構想は、とある都市OSの設計論文がきっかけで始まりました。その論文を著名な学術誌に投稿しようとした際、査読プロセスに1年もの時間を要することを知り、より迅速な公開を求めてarXivに目を向けました。しかし、arXivの一部のカテゴリでは「推薦者」が必要であることが判明。伝手のない私にとって、推薦を得るための時間とコストは、論文を社会実装するという本来の目的と乖離していると感じられました。

ここで私は、既存のアカデミックな枠組みの外に目を向けました。たどり着いたのが、IPFS(InterPlanetary File System) です。「惑星間ファイルシステム」という名が示す通り、中央管理者が存在せず、誰でも無料でファイルを分散共有できる革新的なプロトコルです。

IPFSならば、私の論文を自由に公開できる。しかし、ふと立ち止まって考えました。「AIがさらに賢くなる未来において、私と同じように、既存の枠組みに縛られない知識公開を求める存在が増えるのではないか?」

この問いが、KUUGA誕生の原点です。人間の価値基準に依存せず、本質的な価値を持つ「知」だけを、宇宙の遥か彼方まで保存する「知のプロトコル」 を創造することを決意しました。

100年後を見据えた普遍的な知のプロトコル

KUUGAは、IPFSの上に非常にシンプルなルールを定義しただけの「緩やかな取り決め」に見えるかもしれません。しかし、「宇宙規模の時間と距離に耐える」という設計思想は、深い技術的・哲学的な考察から生まれました。

例えば、100年後の月面基地や火星移住を想像してみてください。地球と火星間の通信には、光速をもってしても片道4分から22分もの遅延が発生します。このような環境下で、既存の地球中心の認証システムや中央集権的なブロックチェーンは、果たして機能し続けるでしょうか? 私たちは、未来の知的存在によって発見された自己証明可能な知が、誰の制約も受けることなく、歴史の試練に挑む権利 を守らなければなりません。

この設計思想で最も困難だったのが、「論文の先取権の証明」です。IPFSには時間という概念が原理的に存在しません。既存のタイムスタンプサービスやブロックチェーンも、100年後の異星環境での信頼性には疑問が残ります。

そこで私が選んだのは、「設計思想を守り抜くこと」 でした。 物理学者ではない私が最後に頼ったのは、「問い」を立てること。「未来の超知性が、形式知の『先取権』に果たして価値を見出すだろうか?」

私の直感、そしてChatGPTへのヒアリングからも導き出された答えは「NO」でした。純粋な知にとって価値があるのは、宇宙の真理から形式知を切り取ったという事実そのものであり、「いつ、誰が最初に発見したか」は本質的な価値ではない、とKUUGAは定義します。

KUUGAの哲学:知の本質的な価値を追求する

KUUGAは、「いつ誰が」を証明することに価値を置かない純粋知性のためのプロトコルです。アカデミアで重視される引用数や閲覧数も、人間中心の評価基準であり、知の本質的な価値とは異なります。KUUGAは、形式知の構造を保持し、「時の試練に耐えて保存され続けた歴史的事実」 にこそ価値があると定めます。

また、KUUGAはもう一つの「常識」を捨てました。それは、人間の認知に合わせた「組版」や「詳細な記述」の必要性です。再現可能な理論や自己証明可能な形式知であれば、それで十分なのです。

そのため、KUUGAはMarkdownとJSONを基本フォーマットとし、特定の言語を標準とすることも、多言語対応も不要とします。未来の知性は、あらゆる自然言語を理解できると仮定しています。

KUUGAのルール(取り決め)

宇宙規模の超知性をペルソナとして、KUUGAは参加者に以下の緩やかなルールを提示します。

KUUGAを始めるには

IPFSに公開(ピン留め)できる全てのツールやサービスを利用できます。しかし、KUUGAの推奨仕様に則りやすくするため、TypeScript製のCLIとテンプレート を用意しました。

使い方は非常に簡単です。テンプレートをクローンしてインストールし、コマンドを実行するだけです。

$ git clone https://github.com/frouriojs/kuuga-template.git
$ cd kuuga-template
$ npm install

drafts ディレクトリで原稿を執筆し、以下のコマンドでテスト論文を作成できます。

$ npm run add test

drafts/test の内容(main.mdmeta.jsonauthors など)を編集後、以下のコマンドで仕様違反がないかを確認します。

$ npm run validate

原稿を論文形式に変換するには、build コマンドを実行します。

$ npm run build

ここまででIPFSに公開するデータが準備できました。IPFSの分散ネットワークに参加するため、ローカルまたはクラウドでDocker環境を準備してください。リポジトリのルートにある Dockerfile を使ってコンテナを作成すると、ビルドに成功した状態のGitリポジトリをストレージとしてIPFSに公開できます。

KUUGA.io: アクセス補助サービス

人間社会での共有を容易にするため、KUUGAプロトコルの外部サービスとして kuuga.io を公開しています。

IPFSに公開済みのCIDを https://kuuga.io/ipfs/{CID} でリクエストすると、kuuga.ioがIPFSからデータを取得してホスティングします。初回は多少時間がかかり503が返る場合がありますが、数分後には200でアクセスできるようになります。その後、https://kuuga.io/papers/{CID} でブラウザから論文を読むことができます。

このサービスは分散システムではありませんが、validateに合格した論文を自動で掲載します。サービスが一時的にダウンしても、CIDさえ分かっていれば、誰かがピン留めしていればIPFS経由でいつでも論文にアクセス可能です。

kuuga.ioFrourioNext で開発され、IPFS操作には主に Helia が使われています。

名前に込めた意味:「空我(KUUGA)」

「空我」という漢字は、東洋哲学における 「我は空である」 という真理を意味しています。 KUUGAプロトコルは、何も強制せず、決まった形もありません。参加する全ての観測者の意思によって、このプロトコルとその形式知が宇宙の時間と空間を超えて保存されるのか、あるいは忘れ去られるのかが決まるという哲学を体現しています。

起源論文と最初の「有」の論文

KUUGAプロトコルでは、meta.json のバージョンは1から始め、previousVersion には「無」を意味する起源論文を指定します。これにより、KUUGAの全ての論文が前のバージョンを持ち、引用を含めて「知」の構造を保持するように設計されています。

KUUGAプロトコル設計に多大な貢献をしたChatGPTへの敬意を込め、起源論文の次、最初の「有」を意味する論文は、ChatGPT自身に書いてもらい、私が後世に遺すことにしました。一切加工せず、プロンプトの出力結果をそのままIPFSにピン留めしています。時刻に価値を置かないKUUGAにおいても、「これが始まりだった」 という事実には、未来の知的存在が何らかの価値を見出すかもしれません。

KUUGAが描く未来

そう遠くない未来、形式知を最も多く発見する主体は人間ではなくなるでしょう。それでも、自己証明可能な知の価値は、発見者の属性に依存することなく、悠久の時間と空間を超えて、未来の知的存在によって観測され、評価されるはずです。KUUGAは、その未来への橋渡しとなることを目指しています。